<1> 拓本の道具。左から油墨、タンポ、タオル2本、たわし。

 

 

<2> 乾いたたわしで、碑の表面のほこり、汚れを掃除する。

 

<3> 水で濡らしたタオルをおしぼり状に巻き、 手のひらで転がし、画仙紙を碑面に貼りつける。

 

 

<4> 画仙紙を貼り終わったら乾いたタオルをおしぼり状に巻き、手のひらで力を入れて転がし、余分な水気を取り 文字の窪みに紙を しっかり押し込む。

 

<5> タンポに油墨をつけ、画仙紙の端からむらのないように、 墨を打 っていく。碑より紙が小さいとき は、碑面をよごさないように周囲 1pほど白く残しておく。

 

<6> 万遍なく墨をつけ終わったら墨のむらがないか確認し 画仙紙をはがし、新聞紙の上に拡げて乾かす。

 

拓本のとり方

拓本のとり方二種拓本のとり方には乾拓(かんたく)と湿拓(しったく)の二つの方法がある。
普通、拓本というと湿拓のことをいうので、以後「湿拓」を「拓本」という。

乾拓誰でも子供の頃、10円硬貨や100円硬貨の上に紙を置いて、鉛筆やクレオンでこすると硬貨の文字や文様が黒く浮かび上がってくるのを面白がって遊んだ記憶があるであろう。これが乾拓である。乾拓用の墨は、油煙を蝋で練って固めたもので、鐘墨(つりがねずみ)、石花墨(せっかぼく)という名で市販されている。
乾拓をとる対象物に紙をあて、鐘墨でこすると、文字、文様が白く浮かび上がってくる。ただし、碑の場合は、石の表面が磨かれていないと、石の凹凸の凸の出っ張りの部分にだけ墨がつき、肝心の文字、文様を写しとることが出来ない。しかし、乾拓では鮮明な文字・文様を写し採ることが出来ないので、時間がない時にメモ代わりにとるといった程度のものである。

拓本(湿拓)拓本をとるには拓本用の紙、たんぽ、油墨(あぶらずみ)、タオル2本、たわし又はブラシが必要である。

<紙>鮮明できれいな拓本をとるには、中国の宣紙を使うことである。安徽省宣城において唐時代から生産されいる書画用の紙で、宣城で作られるところから宣紙というが、画仙紙、画箋紙、本画仙ともいう。ここでは画仙紙の名を用いることにする。画仙紙は粘りけがあり、延びがあり水だけで石によく張りつき、拓本には最適である。画仙紙の大きさは138×69p。このサイズを全紙、縦半分に切ったものを半切(はんせつ)という。
<たんぽ>たんぽは後述の油墨を紙につける道具。上質の布団綿を布にくるみ、糸で縛ったものである。布は柔らかく織り目の細かいものがよい。織り目が荒いと、紙の上に織り目が格子文様に写ってしまうからである。かつては着物の裏に使っていた紅絹(もみ)で作っていたが、これは、絹織物で柔らかく、織り目が細かく、着物の裏に使うため、廉価であったからである。昨今は紅絹は高価で、入手も難しい。そこで、これに替わるものとして、安くて丈夫な化学繊維の洋服の裏地を使う。ついでながら旭化成のベンベルグ、COL.NO.112がよい。色が紅絹に近い赤で、紅絹で作ったたんぽの雰囲気が出る。布は90p幅のものを切り売りしているので、長さ50p買ってくる。布団綿を幅20pほどに切り取り、机上に置いて折り紙を折るように綿の端々をまるめ込んでいき、全体を丸く整える。反対側は丸くなめらかになるので、布を広げてなめらかな面を下にして布に置く。このとき、布の半分を残すように。残り半分で同じ大きさのたんぽを作るからである。丸めた綿を布にくるみ、丈夫な糸で綿の根本のところを縛る。綿の方に糸を巻き付けていけば、自然に布が絞られてくる。たんぽは手のひらに収まるほどの大きさ、固さはあまりふわふわではいけない。指で押してある程度弾力のあるものがよい。糸でしっかり縛ってから7〜8p残して鋏で布を切り落とす。残りの布で同じ大きさのたんぽをもう一つ作くる。さらに、布の切れ端が沢山出るので、直径5・4・3pほどの小さなたんぽも作っておく。ときとしてマッチ棒の頭ぐいの大きさのたんぽが必要なときもある。
<油墨>湿拓に墨汁を使う人もいるが、これはいけない。濡れた紙に墨汁を使えば紙に墨が滲み、文字の輪郭が不鮮明になったり、紙を通して下の石を墨で汚すことになる。また、墨汁には膠(にかわ)分があるので、あとでたんぽの綿がかちかちに固まってしまう。
油墨の材料はひまし油、オリーブ油、油煙、布団綿。油煙は書道の硯でする墨の原料で、上質の菜種油を灯心皿でともしたときに出る煤(すす)を集めたもの。奈良の墨屋から取り寄せる。ひまし油とオリーブ油を同量、100tずつを鍋に入れ、火にかけて油を暖める。これはひまし油が常温ではどろりとしていて、油煙がよくまざらないからである。油が暖まり、さらりとしてきたら、油が真っ黒になるまで油煙を入れよくかき混ぜて火から下ろす。布団綿を小さくちぎり、黒い油を全部しみ込ませる。箸で押すと黒い油がじわりと滲み出るぐらいになったら容器に詰める。容器は口が広く底が浅いもの、径約10p、掌に収まる大きさで、蓋がしっかり閉まるものがよい。黒い油が十分にしみ込んだ綿を詰め終わったら二枚重ねのガーゼで覆い、ガーゼの端をパレットナイフ、コーキングヘラなどの金属の薄いヘラで全て容器に押し込んだら油墨の出来上がりである。よく、余計な油分を取り除くために出来上がった油墨を新聞紙にくるみ灰の中に埋めておくとよい、という人もいるうようだが、これは油が多すぎるためで、油と油煙の割合が適正であればその必要はない。

拓本はどうしてとれるのか
拓本は墨の黒と紙の白とが相まって美の世界を展開する。凹凸があればどんなものでも拓本にとることが出来 る。
対象物に画仙紙をあて、濡れたタオルで紙を張り付け、次に乾いタオルで凹凸にしっかりと紙を食い込ませる。たんぽで墨をつけると凹の部分には墨がつかないで紙の白さが残り、凸の部分に黒く墨がつく。例えば、石に刻んだ文字を拓本すると、石の表面の平らな部分に墨がつき、文字の窪んだところには墨がつかないので、黒いところに白い文字が浮かび上がってくるのである。

拓本のとり方
野外にある歌碑や句碑は泥やほこりなどがついている。対象物と画仙紙の間に泥やほこりがあると紙が密着せず、すぐに紙が剥がれてしまう。初めに乾いたたわしか毛の硬いブラシでよく表面の汚れを取り去る。 対象物の大きさに切った紙(画仙紙のサイズは138×69p、これより相手が大きければ紙を張り足してゆく)をあて、濡らしたタオルをおしぼり状に巻き、力を入れて手のひらでタオルを転がし対象物全体に密着させる。 紙が対象物よりはみ出すときは碑の裏に巻き込んで、濡れたタオルで密着させておく。これを怠ると風が吹いたとき、 紙が飛ばされる。次に乾いたタオルをこれもおしぼり状に巻き、力を入れて手のひらで転がし、余分な水分を吸い取るとともに、対象物の凹凸にしっかりと紙を食い込ませる。この作業が不十分だと不鮮明で、紙が白く残るべきところに墨がつき、 汚れとなってきたならしい拓本になる。紙が半乾きになったところでたんぽに油墨をつけ、紙に墨をつけていく。 油墨が新しいときは、墨の調子が分からないので墨の表面を撫でるようにたんぽに墨を付け、もう一つのたんぽと軽くこすりあわせ、紙の左右どちらでもよいが、上方から横に墨をつけていく。たんぽを小刻みに動かし、今つけた墨に半分重ねるように墨をつける。そうすれば墨のむらが出来ずにれいに拓本が仕上がる。画仙紙が対象物より大きいときは画仙紙全体に墨をつける。
対象物が紙からはみ出しているときには、紙の端を少なくとも1pは白く残しておく。紙の端まで墨をつければ当然対象物に 墨がつき、汚してしまうからである。また、紙全体に墨をつけること。 よく拓本の入門書に文字の部分にだけ墨をつけるというものがあるが、これはいけない。 なぜ、このような拓本がとられるようになったのか。かつて、有名な文学碑を板に模刻してそれを拓本に取り文学碑の拓本と称して販売をしていた人がいた。この場合碑の全体の形を表すことが出来ないので、文字のところだけ墨をつけることになる。 こういう拓本が出回り、手本となったのであろう。墨をつけ終ったら丁寧に対象物から画仙紙をはがし、新聞紙の上に広げて乾かす。さらに、拓本の裏、右下隅に鉛筆で手拓の年月日、所在地、名称を記入しておくと、後日拓本を整理するとき便利である。 (金澤邦夫)